朗読「手離した幸せの色」(3分半〜)


ルール

・一人称、語尾変、性別変OK

・使用の際には下にコメントを残していただき、使用先で「(台本のタイトル)」 「まつかほの台本」(もしくは「作者まつかほ」)を明記してください。このホームページのURLも併記してくださると嬉しいです。

・使用場所のリンク等を貼ってくださると僕も聞きに行けるので助かります!

・BGMはご自由につけていただいて構いませんが、BGM作者様がいる場合には許可を取ってからつけてください。

・読めない漢字はご自分でお調べください。

 ・詳しくは台本使用に関する注意事項をお読みください。

 


あなたの心は何色でもないね。

私じゃなくても、誰でもいいんでしょ

 

世界が突然暗闇に包まれて

自分がとても小さく感じた。

今までの自分を全て否定されたようで、声を失った。

なぜうまく色を塗れないんだろう。

筆に仮初めの絵の具をつけて綺麗に塗っても

はみ出たところからしずくがこぼれる。

 

ひとりになりたくて星を見上げた。

街から離れてるせいか星明かりが滲んで眩しい。

 

「いつまで隠すつもりなんだ。」

 

突然現れた声の主を探す。

くたびれた服を着る初老の男が、真後ろに居た。

 

「そうやって逃げていても、すぐ後ろをずっと追いかけてくるぞ。」

 

手足が痺れて耳が遠くなる。

喉が締まって声にならない音が口から漏れる。

 

「苦しいよな。孤独を隠したくて取り繕っても結局は何者にもなれない自分が、苦しいよな。」

 

初老の男が隣に座る。

遠くを見るその目に懐かしさを感じて、思わずしゃがみ込む。

 

「自分が何者かもわからない。なぜここにいるのかもわからない。人並みに生きているはずなのに幸せを受け取れない。愛を向けられると避けてしまう。」

 

心なしか男の声が若くなっているように聞こえた。

何を言われているのかわかるようでわかりたくなかった。

 

「誰かのところに彼はいないよ。だって彼はずっとすぐそばにいるのだから。」

 

ふと顔を上げると

目の前に家が建っていた。

後ろから背中を押されるように中に入ると

何もかもあの頃と同じだった。

あの頃の、傷だらけの自分がいた。

家にも、学校にも、居場所がなくて、

無理やりお調子者を演じては

1人の部屋で膝を抱えていた。

苦しみから逃げるように心を追い出して

白紙になった部分を覆うように仮初めの笑顔を塗った。

 

「いつまで僕から逃げるの。」

 

息を激しく肺に入れると

隣にいるのはあの頃の自分だった。

 

「やっと隣に並べた。星、綺麗だね。こんなに綺麗な景色を君と見たの久しぶりだな。とっても幸せな気持ちだよ。」

 

あの時に追い出した彼が隣で笑う。

やめてくれ。そんな簡単に幸せなんて言わないでくれ。

 

「僕の姿、懐かしいでしょ。あの時のままだよ。もう、気づいてるよね。」

 

答えられない。答えたくない。もう、傷つくのは嫌なんだ。

 

「本当は幸せがどこにあるのか知ってるよね。傷つくことを怖がらないで。」

 

彼の鼓動が背中を叩く。涙が仮初めの絵の具を落としていく。

 

「だって、僕はずっとそばにいる。僕が僕の色をちゃんと覚えてる。僕は、頑張ってる君をずっと見てるよ。そろそろ、僕の色を使ってよ。孤独でいるのは、もう飽きたよ。」

 

 

彼の鼓動が、中から僕を叩きだす。

 

 

そうだったね。幸せの絵の具は、自分の心の中にあって初めて色が見えるんだ。

僕だけの色。誰かの色じゃなく、僕のための色。

これからは、僕の色をみんなにも見てもらおう。

なんと言われようと、僕の色は僕にしか出せないから。

 

星が作った僕の影は、虹色に伸びていた。