和風朗読「彼の地に咲く花ー束の間の静寂(しじま)ー」(2話/4話)


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原作「和風朗読台本 彼の地に咲く花(90秒)」を

全4話 にしてお届けする、朗読用「彼の地に咲く花」の第2話

「束の間の静寂(しじま)」

 

第2話では、

島田の手により、村と家族を奪われたことで仇討ちを決心した少年が、鍛錬に励みながら、城での束の間の日常を過ごします。

 

しかし、新たな悲しみが城を襲い、少年は予期せぬ仕事を任されます。

 

 

人物紹介

吉川新九郎秀秋:よしかわ しんくろう ひであき。香月が仕えている領主。家族や家臣達をとても大事にしており、特に子供に甘い。慈愛の新九郎と呼ばれている。

 

香月藤次郎晴久:かづき とうじろう はるひさ。吉川の右腕。剣術、戦力ともに秀でており、他の家臣にも慕われている。少々変わり者。

 

奥方:本名は鶴。吉川の正室であり、いち姫の母。病弱だがその人柄で侍女や吉川の家臣達からの人望も厚い。物怖じせずに吉川に苦言を呈することもある。

 

いち姫:吉川と鶴の間に生まれた一人娘。人見知り気味だが、母の気の強さを引き継いでおり、時折侍女達を困らせる。好奇心は旺盛。

 

島田勝三朗義光:しまだ かつさぶろう よしみつ。木村領攻略が思うように進まず、数々の非道な手を使う領主。恐怖での支配を好み、赤子だろうと平気で切り捨てる。

 

木村与一郎元忠:きむら よいちろう もとただ。かなりの策略家で、島田による侵略を最小限の力ではじき返す名領主。剣術の腕も立ち、領民からも慕われている。

 

  

(以下、台本)


     

仇討ちをしたいと言った俺をしらばく見つめた後、殿様は俺を介抱してくれた香月殿を呼んだ。

 

俺の後ろに香月殿が座る。

 

「こやつは仇討ちをしたいと申しておる。藤次郎(とうじろう)、お主に任せてもよいか?」

 

2人きりになると、香月殿は苦しそうに咳き込んだ。

まったく、殿は人使いが荒いと言ってため息をついてはいるものの、その言葉尻に不満さは感じられず、俺は安心した。

 

改めて剣術の稽古を請うと、切れ長の目をさらに細くして、厳しく稽古をつけるから覚悟してねとだけ言った。

 

実際、本当にきつかった。

朝は夜が明ける前から鍛錬と稽古が始まり、月明かりのある晩も夜目(よめ)の訓練と言って稽古を続けた。

剣術など初めての俺はすぐに息が上がり、痣だらけになった。

 

対して香月殿は同じ時間、稽古と鍛錬をしているはずなのに、ひとつも息が上がらない。

悔しかった。

俺が突っ込んで行ってもほとんど動かずにいなし、

このままではすぐに切られるぞと、目だけで語るその姿が怖かった。

 

俺は毎日泥だらけになりながら稽古に励んだ。

日に日に香月殿の呼吸を感じる余裕が出てきたが、そうすると香月殿はさらに稽古を厳しくしていった。

 

と同時に、香月殿からは読み書きやそろばん、戦略の手ほどきといった勉学も習った。

時には香月殿や他の者達と将棋を指した。

稽古では全く太刀打ちできない俺も、将棋なら香月殿を追い詰めることができて楽しかった。結局は一度も勝てはしなかったのだが。

 

ある日、それを陰からこっそりと見ている幼い姫様に気づいた。

香月殿が手招きをする。しかし、奥方様の後ろに隠れてしまった。

奥方様が俺を見て小さくうなずいたので、また顔を出したいち姫様に手招きをすると、チラと奥方様を見て、俺の元へ駆けてきた。

香月殿が肩をすくめる。

持っていた筆を姫様に持たせてやると、嬉しそうに絵を描きだした。

俺も香月殿も、その笑顔に束の間の幸せを感じていた。

 

奥方様には大変よくしていただいた。

本当の母親のように俺を気遣ってくださり、城の生活にすぐになじめるように取り計らってくださった。

自然と、いち姫様の相手もするようになった。

 

しかし、奥方様は体が弱く、月ごとに床(とこ)に臥せる日が増え、俺が城に来て4年目の春に、亡くなってしまった。

明日は花見をしましょう。それが最期の言葉になった。

 

かかさま!と亡骸にすがりつこうとするいち姫様を抱きかかえる。

まだ6つの姫様。優しい母を亡くすのがどれほどのつらさか、身を引き裂くほどに伝わってくる。

 

泣き疲れて眠ったいち姫様を布団に寝かせると、目を赤く腫らした香月殿がやってきた。

俺に姫様の目付役を頼みたいと言う。

 

俺は驚いて出た声を必死に飲み込んだ。今、姫様を起こしたくない。

 

「そのような大役、私では務まりません!」

 

声を押し殺して訴えたが、香月殿は微笑んで出て行ってしまった。

 

途方に暮れて、その晩はひとり、月見をしていた。

遠くの方で、香月殿と殿様が話しているのが聞こえてきた。

 

鶴の骨を故郷に埋めてやりたい。桜がとても綺麗な地だから、桜が好きなあやつは喜ぶだろうと、殿様は話していた。

 

香月殿はそれに賛成した後、

いち姫様の目付役に俺を推すと言い出した。

殿様がうなる声が重なる。

 

香月殿は引かない。

 

剣術の腕も頭のキレもこの城にいる誰よりも長けている。姫様も懐いておられる。申し分なく適任だと、迷い無く言う声に、鼓動が早くなった。

 

殿様も香月殿の言葉に納得したようで、次の日から、俺は姫様の目付役を命ぜられた。

 

命を懸けて、姫様をお守りすると誓い、それからの稽古と勉学により一層力を入れた。

 

もう誰も目の前で死なせない。俺の力で、大切な人を守り抜く。

 

木刀を振るう腕に筋が立つ。

 

17の夏。初陣をした。

香月殿に十分に鍛えられていた為か、恐怖を感じることは無く、最後まで刀は軽かったが、初めて人を切ったあの重みは忘れられない。

もう、戻れないのだ。

 

戦から帰還すると、吉川の左に鬼あり、とあちこちに噂が広がった。

 

(第3話へ続く)


 

時間は目安です。

 

第3話では

「戦の鬼」と呼ばれるまでに成長した主人公と、年頃になった姫様に暗雲が立ちこめます。

 

併せてこちらもどうぞ

原作→和風朗読「彼の地に咲く花」(90秒~)

   和風掛け合い「彼の地に咲く花~鬼が憂う月~」(5分~)

 

第1話はこちら

 

 

戦国豆知識

※当時、領主や大名の妻は名前では呼ばれず、奥方様、北の方様、御台様(みだいさま)などと呼ばれていた。また、正室か側室かでも呼び方が異なり、夫の地位によっても呼び方が違っていた。住んでいた地名や城の名前で呼ばれることもあった。

 

淀殿も、淀城を与えられたことからそう呼ばれるようになったことは有名ですね。

このように、実際の名前を呼ばれることは滅多にありませんでした。