ルール
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「(台本のタイトル)」
「まつかほの台本」(もしくは「作者まつかほ」)を明記してください。
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・コメント欄に使用場所のリンク等を貼ってくださると僕も聞きに行けるので助かります!
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原作「和風朗読台本 彼の地に咲く花(90秒)」を
全4話 にしてお届けする、朗読用「彼の地に咲く花」の第1話
「命散るらむ」
ここでは
鬼と呼ばれたその強さの根源が明かされます。
命散るらむ。・・・どうして命は散るのだろう。
その儚い事実を突きつけられた、一人の少年のお話です・・・。
人物紹介
・吉川新九郎秀秋:よしかわ しんくろう ひであき。香月が仕えている領主。家族や家臣達をとても大事にしており、特に子供に甘い。慈愛の新九郎と呼ばれている。
・香月藤次郎晴久:かづき とうじろう はるひさ。吉川の右腕。剣術、戦力ともに秀でており、他の家臣にも慕われている。少々変わり者。
・奥方:本名は鶴。吉川の正室であり、いち姫の母。病弱だがその人柄で侍女や吉川の家臣達からの人望も厚い。物怖じせずに吉川に苦言を呈することもある。
・いち姫:吉川と鶴の間に生まれた一人娘。人見知り気味だが、母の気の強さを引き継いでおり、時折侍女達を困らせる。好奇心は旺盛。
・島田勝三朗義光:しまだ かつさぶろう よしみつ。木村領攻略が思うように進まず、数々の非道な手を使う領主。恐怖での支配を好み、赤子だろうと平気で切り捨てる。
・木村与一郎元忠:きむら よいちろう もとただ。かなりの策略家で、島田による侵略を最小限の力ではじき返す名領主。剣術の腕も立ち、領民からも慕われている。
(以下、台本)
今どこを走っているのか。どれほどの時間を走り続けているのか。
ただ、迫り来る死への恐怖が俺の足を動かしている。
突然現れた、馬に乗り刀を持った武士。
そうだ。俺たちは田植えをしていたところだった。
そこへ刀を振りかざした武士達が襲ってきた。
父が走れと叫び、母の悲鳴が頭に反響した。
村中から、血の臭いが立ちこめた。
鎧を身につけ、立派な兜をした武士が言った。
「死にたくなくば降伏せよ!わしは島田 勝三郎 義光(しまだ かつさぶろう よしみつ)である!降伏すれば命は切り捨てずにおいてやる!」
俺の父だけでなく、ほとんどの男を切り捨てられた村人達は従うしかなかった。
俺も足を一歩踏み出した、その時。
「走れ!!」
横たわる父の声が頭に響いた。刹那、目の前で母と兄弟達から血しぶきが上がる。
島田が不気味な笑みを浮かべたと同時に、あちこちから断末魔がこだまする。
俺は走った。入り組んだ裏山を縫うように走った。すぐ後ろから武士達が迫る。
喉がすり切れるほど走り、気づくと辺りは静かになっていた。
風が葉を揺らす音が聞こえる。
もう体を起こすことすらできなかった。
これからどうしたら。どうして俺だけが生き残ってしまったんだ。あの時逃げずに武器を取れば。
俺が強ければ…家族だけでも守れたかもしれない。俺に力があれば・・・!
嗚咽を漏らす喉に血の味が広がる。
どうしてこんな簡単に死んじまうんだ。
手で顔を覆う力も残っていない弱い自分を呪った。
近くで足音がした。
島田の追っ手に見つかったのかもしれない。もう、逃げる体力は無い。
「どうしてこんなところに子供が・・・。おい、生きてるか?」
柔らかな声がすっと遠くなり、俺は暗闇に落ちた。
目を覚ますと畳の匂いがした。
全身に痛みが走り、指一本動かせなかった。
俺は、まだ生きている・・・?
ゆったりとした足音が近づいてくる。
「目が覚めたんだね。」
柔らかな声の主はそばに座り、優しく俺の体を起こすと水を飲ませた。
侍女におかゆを持ってくるように頼むと、俺の方を向き、まるでこの世が無くなってしまったような悲しい顔をして、
「君の村を見てきた。」
と話し出した。
田んぼは血の水に染まり、そのままにされた遺体には虫がたかり、家も壊されていた、と。
島田は隣の領主、木村与一郎元忠(きむら よいちろう もとただ)と領地争いをしていて、領地を広げるためならどんな残虐な手でも使う。この辺り一帯の領主達もその非道ぶりを問題視していて、情報が入りすぐに向かったが、間に合わなかった、と。
「救ってやれなくてすまなかった。武士とは本来、弱き者を助ける為に鍛錬をしているというのに。こんな子供にまで手をかけるなど・・・あってはならぬのだ・・・!」
俺は何も考えられず、隣で苦しそうに涙を流す武士を見つめていた。
髪を下ろし、髷(まげ)も結っておらず、後ろで軽くまとめている。
切れ長の細い目を固く閉じて泣いている様は、まるで武士には見えなかった。
男は香月(かづき)と名乗り、明日(あす)、殿に会わせるから今夜はよく寝ておくようにと言い、出て行った。
侍女が運んできた、できたてのおかゆを胃に詰めると、俺はまた泣いた。
その日は泣き疲れて眠ってしまった。
朝になると侍女達が忙しなく行き来して、殿様に謁見する準備を整えていった。
俺はそわそわしながら、殿様が来るのを顔を伏して待った。
衣擦れの音が正面で止まり、一呼吸置いてから、殿様は俺の名を聞き、顔を上げるように言った。
「わしは吉川新九郎秀秋(よしかわ しんくろう ひであき)。島田と木村の領地と隣り合っているこの地を治めている。此度(こたび)はまことに、難儀であったのぅ。」
喉がぐっと締まった。何も言葉が出なかった。
声を出せない俺をまっすぐ見据えて殿様は言った。
「これから、どうしたい?」
どうしたい?これから?俺はこれから何をしたらいい?そんなの、決まってる。
島田の首を取り、家族の仇を討つ!
殿様は憂い気な顔をして、その覚悟はできているのだなと問うた。
まっすぐ見据えて、うなずく。
大きく息を吐くと、殿様は香月殿を呼んだ。
(第2話へ続く)
時間は目安です。
第2話は束の間の日常。鍛錬の日々と姫との関わり合いが語られます。
併せてこちらもどうぞ
原作→和風朗読「彼の地に咲く花」(90秒~)
戦国豆知識
※当時、名前は「名字+通称+諱(いみな)(実名、本名)」の形でつけられ、諱は忌み名として口に出すことは禁じられていた。
名乗り口上や敵を呼び捨てにする時などは諱も言うこともあった。戦国時代になると名乗り口上は廃れていった。
ドラマなどでよく聞く「信長様!」などは本当だったら切り捨てられちゃってますね・・・笑
でもお話をわかりやすく進めるため、必要な場面ではこの台本でも使っていきたいと思います。