和風掛け合い台本「彼の地に咲く花ー鬼が憂う月ー(5分)


ルール

・変更NG

・使用の際には下にコメントを残していただき、使用先で「(台本のタイトル)」 「まつかほの台本」(もしくは「作者まつかほ」)を明記してください。このホームページのURLも併記してくださると嬉しいです。

・使用場所のリンク等を貼ってくださると僕も聞きに行けるので助かります!

・BGMはご自由につけていただいて構いませんが、BGM作者様がいる場合には許可を取ってからつけてください。

・読めない漢字はご自分でお調べください。

・詳しくは台本使用に関する注意事項をお読みください。

 


時政

「いち姫さま。またこのような時間に起きていては、お身体に障りますぞ。」

 

いち姫

「時政(ときまさ)か。よいよい。言うてそなたも、眠れぬ口じゃろう?」

 

時政

「歳を取ると、眠りが浅くなるものなのです。それに、心配事があれば尚更眠れませぬゆえ。」

 

いち姫

「なんじゃ。わらわをじっと見おって。わらわはまだまだ年老いておらぬぞ」

 

時政

「ハハハ、歳を取る前に、いち姫様はきっと、名のある御前様(ごぜんさま)の奥方様として迎えられることでしょう。」

 

いち姫

……そうだろうな。父上は、いつもその話ばかりじゃ。作法やら戦略やら、しきたりやら伝統やらわらわは堅苦しいのは好かぬ」

 

時政

「それで眠れず、こんな夜更けに外で月見などしてらっしゃるのですか。」

 

いち姫

「なぁ、時政、父上には言うなよ?」

 

時政

「この時政、墓の中まで持っていきましょう。」

 

いち姫

「そなたはいつも大げさすぎるのじゃ。それに、墓なんぞと縁起の悪いことをぬかすでない!そなたに死なれたら、わらわの愚痴を聞かせる相手が居なくなってしまうではないか。」

 

時政

「侍女(じじょ)では物足りませぬか。」

 

いち姫

「ふん!侍女めらは口が軽いし、キャーキャーと騒ぐだけで、身のある話なんぞできぬ。かえって疲れる。」

 

時政

「左様でございますか。では、姫様が嫁がれるその日まで、墓に入らぬよう稽古により一層励むとしましょう。」

 

いち姫

「ぬかせ。そなたを切れる化け物が他にいるわけなかろう。戦では、鬼の時政と呼ばれているそうではないか。」

 

時政

「いけませぬぞ。そのような話は、姫様が面白がって聞くようなものではありませぬ。」

 

いち姫

「別に面白がってなどおらぬ。父上はそなたの話ばかりするからな。あれはいい武士になったと、毎日聞かされる身にもなってみろ。戦のたびにそなたを連れて行かれては、わらわは話し相手が居なくなって困るではないか。」

 

時政

「童(わっぱ)の頃に拾ってもらったご恩を返せるなら、いくらでもこの命、戦にかけましょうぞ。」

 

いち姫

「まったく。これだから武士は嫌いなのじゃ。」

 

時政

「ハハハ、武士はお嫌いですか?」

 

いち姫

「嫌いじゃ!武士という生き物は戦でしか生きられぬと父上はおっしゃる。では、想い待ちくたびれるこちらは、一体どれだけ苦しめばよいのじゃ!嫁ぐだのなんだのと、わらわは顔も知らない他人なんぞに嫁ぎたくない!!」

 

時政

「いけませぬぞ、姫様。そのようなことをおっしゃっては、姫様の権威も危ぶまれます。」

 

いち姫

「わかっておる!だから、こうして時政に話しておるのだ。鬼に気安く話しかけられるのは、わらわくらいだからな。」

 

時政

「それもそうですね。姫様の内緒話は、墓に入る頃には持ちきれなくなっていそうだ。」

 

いち姫

………死ぬなよ。」

 

時政

「え?」

 

いち姫

「また、近いうちに戦があるのじゃろう?父上の様子を見ていればわかる。」

 

時政

「さすが姫様。察しがよろしいのですね。」

 

いち姫

「次はいつ愚痴が言えるかわからぬからなこうして、月見が趣味のそなたが来るのを待ってたというわけだ。」

 

時政

「それで姫様がお身体を壊したら、戦に行く前に腹を切らねばならなくなりますよ。」

 

いち姫

「そんなことはさせぬ。それに、そなたが居ないと困るのは父上だ。そう簡単に切腹などさせまい。」

 

時政

「そんなに持ち上げても、何も出ませんよ。」

 

いち姫

「そなたはそうやってのらりくらりと、いつも大事なことをかわしてしまう。もうよい。わらわは寝るぞ。」

 

時政

「もう月も高いですから、その方が良いでしょうね。お部屋までお送りしましょう。」

 

いち姫

「いらぬ。もう赤子ではない、ひとりで部屋に戻れる。」

 

時政

「それは失礼いたしました。それでは、安らかな夢を見てくださいね、いち姫様。」

 

いち姫

「あぁ。そなたも、あまり夜風に当たるでないぞ。」

 

時政

「恐れ入ります。」

 

時政

「まさか、姫様にまで鬼と呼ばれる日が来るとはな血で赤く染まったこの身体もう人ではあるまいまさしく鬼。」

「姫様どうか貴女は、幸せになってください。もう人には戻れぬこの身体。姫様が幸せに暮らせるのであれば、いくらでも刃(かたな)を振りましょう。最期の、その瞬間まで。」

「姫様今日も月が綺麗です。」


時間は目安です。

この2人のお話はもう少し広げてあげたいなと思っています。
お楽しみに♪

 

このお話の後日談はこちら(90秒~)

https://daihon-marchais.jimdofree.com/kanotini-saku-hana/